訪問介護事業者の人手不足対策に効果的な4つの方法

深刻化する訪問介護の人手不足、その背景と課題

「訪問介護 人手不足」の問題は、全国的にますます深刻さを増しています。高齢化の加速により需要が急増している一方で、採用は困難を極め、多くの訪問介護事業所が慢性的な人材不足に悩まされています。

しかし、人が集まらないのは単に「働き手が減少している」だけではありません。多くの場合、採用や求人の出し方、働き方の打ち出し方、そして求職者とのコミュニケーションの取り方に改善の余地があります。

株式会社セブンピクチャーズがこれまで訪問介護事業所の採用支援を行ってきたなかで、特に効果的な人手不足対策を4つに絞って紹介します。

1. 求人の見直しで「経験者」が納得する情報を届ける

求人票は事業所の“顔”であり、第一印象です。

しかし、経験者が見たい情報をしっかり盛り込んでいる求人は決して多くありません。特に「訪問介護の経験者」が転職先を選ぶ際には、以下のような“業務の中身”に対する具体的な情報を必要としています。

◇訪問件数や1日のスケジュール(例:1日何件、1件あたりの時間)
◇担当制かスポット対応か(固定利用者か、日々変動するか)
◇同性介助の有無や対応の柔軟性
◇移動手段(自転車・バイク・社用車・公共交通機関など)
◇サービス内容の傾向(身体介護中心か、生活援助中心か)
◇訪問先エリアと範囲(地理的な広さ、直行直帰の可否など)


求人情報の作成において大切なのは、「飾りすぎないこと」です。

実際よりも良く見せようとして過度に美化された情報や、現場の実態と乖離した理想像を打ち出すと、入職後に「話が違った」と早期離職につながってしまいます。特に訪問介護の経験者は、過去の職場で人間関係や業務量、スケジュール管理、経営の方針などに課題を感じて退職しているケースが多いため、求職時には「次は失敗したくない」という意識で細かく求人をチェックしています。

だからこそ、求人には「必要な情報を、過不足なく、誠実に」記載することが不可欠です。見栄えのよいキャッチコピーや抽象的な表現よりも、具体的な一日の流れ、訪問件数、移動手段、相談体制、職場の雰囲気など、実際の働き方をイメージできる情報の方が、経験者の心には刺さります。

また、経験者が転職を考える背景には「何かを変えたい」「過去の不満を解消したい」という動機があります。したがって、求人には「他の事業所と何が違うのか」「どのような職場課題に向き合っているのか」という情報もセットで掲載することが重要です。

例えば、他の事業所と比べて「自社のどこが違うのか」を明示できれば、転職を検討している求職者にとって大きな判断材料になります。たとえば、「スタッフが訪問先の調整に意見できる」「残業を前提としたスケジュールは組まない」「同性介助の配慮がある」といった一歩踏み込んだ運用方針は、現場経験者にとって「それがあれば続けられる」と思える重要なポイントです。

こうした違いを丁寧に伝えることで、「自分が求めている環境はここにあるかもしれない」という期待感を持たせることができ、応募のハードルが下がります。そしてその期待感が実際の職場と一致すれば、早期離職を防ぎ、定着につながります。

2. 採用要件の見直しで、本当に必要な要件をみつける

訪問介護の採用要件は、多くの事業所で「経験者限定」「有資格者のみ」といった厳しめの条件になりがちです。しかし、ここで重要なのは「本当にその条件が必須なのか?」という視点を持つことです。

採用要件を次の3段階で整理してみてください。

◇MUST(マスト):絶対に必要な条件

◇WANT(ウォント):あると望ましいが、なくてもよい条件

◇BETTER(ベター):あると嬉しいが、採否に影響しない条件

例えば「介護資格(介護福祉士・介護職員初任者研修・介護福祉士実務者研修)の有無」はMUSTではなくWANTに分類できるかもしれません。また「訪問介護の実務経験」があれば理想的ですが、「施設経験のみ」の方でも対応可能な体制を整えれば、間口は少し広がります。

このMUSTを増やせば増やすほど、当然ながら採用は難しくなり、給与や採用コストも高騰します。逆に、WANTやBETTERの比重を増やせば、未経験者や他業種からの転職希望者も対象に含めることができ、人手不足の解消につながります。


採用条件は、経営戦略です。

明確にしておくべき問いがあります。それは、「このポジションに、本当にお金をかけてでも経験者を採用する必要があるのか?」という点です。
もう少し具体的にすると「そのスキルに年収の30%の採用コストをかける価値があるか」です。

経験者は確かに即戦力として魅力的ですが、採用単価は高く、競合も多いため、採用活動が長期化したり、高額な広告費や紹介手数料が発生したりする可能性があります。しかも、経験・スキル・資格があるからといって、職場にフィットするとは限りません。

つまり、経験者採用は「費用対効果」の観点から、冷静に見極める必要があるのです。ただなんとなく「経験者がほしい」と考えていると、際限なく採用コストが膨らみ、しかも定着しないという最悪の結果を招くリスクすらあります。

人材採用においては、「誰を」「どの条件で」「どのくらいのコストをかけて」採用するのかという戦略そのものが、事業の未来を左右します。採用コストは、その人材にどれだけの価値を求めるのかという経営判断の表れでもあるのです。

3. 安易に「給与を上げる」は要注意

人手不足対策として「給与を上げる」という手法を取る事業所も多いですが、ここには大きな落とし穴があります。

訪問介護業界では、人手不足に悩むあまり「とにかく時給を上げて応募を集めよう」とする動きが散見されます。確かに、国の方針として介護職の処遇改善が推奨されている以上、一定の給与アップは避けられない状況です。しかし、ここで考えなければならないのは、「どこまで上げるか」というラインです。

確かに時給を上げれば短期的には応募が増えるかもしれませんが、「給与目当て」の応募者は定着しにくく、他社の給与が上がればすぐに離職してしまうリスクがあります。

さらに重要なのは、「今いるスタッフを守る」という視点です。
過度な給与アップは既存職員とのバランスを崩し、内部不満の原因にもなりかねません。
既存スタッフにとっても納得感のある給与制度でなければ、新人が入っても職場の空気は良くなりません。昇給制度や処遇改善加算の還元方法を明確にし、内部からの信頼を得ることが、外部の人材確保にもつながります。

訪問介護事業所の職員給与はどのような考えで設定すべきか?

結論から言えば、「地域で最上位でもなく、最下位でもない中間層」に位置づけることが、もっとも現実的かつ持続可能な時給設定です。

エリアの給与相場を調査し、時給レンジの“上位3割〜下位3割”の中に入ることを意識しましょう。つまり、極端に安くもなく、かといってトップを狙いすぎて価格競争に巻き込まれるような設定でもない。自社の現在の給与水準と照らし合わせ、職員が納得できる範囲で調整することが鍵です。

時給を上げすぎると、応募者が「条件目当て」になりやすく、他にもっと高い時給の求人が出た瞬間に流出するリスクが高まります。こうした“時給依存型の採用”では、結局、採っても定着しない負のループに陥ります。

給与は単なる数字ではなく、「職場の価値観」「人材に対するスタンス」「事業としての持続性」を反映する重要な戦略指標です。給与競争だけに頼らず、事業所の強みや働く人にとっての付加価値を明確化し、バランス感覚を持って採用力を高めていくことが、訪問介護事業所の人材採用に求められています。

4. 経験者だけに頼らず、未経験者を育てる覚悟を持つ(事例)

訪問介護事業者にとって、「即戦力である経験者の採用」は魅力的な選択肢に映ります。

一方で、未経験者を育てていく選択肢は、将来的に安定した戦力を生む可能性を秘めています。「育てることはコストがかかる」と敬遠されがちですが、実はその見方自体を見直すタイミングに来ているのかもしれません。以下に、よくある悩みと、それに対する解決事例を紹介します。

A.「経験者を教える工数がない」

→指導担当を作るコスト vs. 採用しても辞めてしまうコスト

よくある声が、「今の現場には教える余裕がない」というものです。確かに、現場が忙しい中で新人教育に時間を割くのは簡単ではありません。しかし、だからといって指導の仕組みを持たず、経験者だけを採用し続けても、入っては辞めるの繰り返しになるケースも多く見られます。

ここで一度、数字の面から考えてみてください。仮に指導担当として1名を育成・配置するコストが年間〇〇万円だとしても、経験者を求人広告や紹介会社を使って採用し、数ヶ月で離職された場合の採用コスト・損失はそれ以上になることがほとんどです。

そして未来を想像してください。1年後、「育成機能がある職場」と「採用してもすぐ辞める職場」、どちらが人材が安定し、発展しているでしょうか。長期的に見ると、教育の投資は“コスト”ではなく“成長の基盤”になります。

B.「未経験者に資格を取らせても辞めてしまう」

→本当に分析すべきは「辞めた理由」と「残る理由」

「初任者研修を取らせたのに、数ヶ月で辞めてしまった」という声は、訪問介護事業者から非常によく聞かれます。しかし、この問題を「資格を取らせたのが無駄だった」「だから未経験者はリスクが高い」と結論づけてしまうのは早計です。

まず考えるべきなのは、辞める理由をきちんと分析できているかという点です。

資格を取得すると、それまで応募できなかった「有資格者限定」の求人に応募できるようになります。つまり、選択肢が一気に広がるのです。では、その中で「わざわざ今の事業所を辞めてでも、他に行きたくなる理由は何だったのか」。ここを深掘りしなければ、同じことが何度も繰り返されます。

重要なのは、「辞めた理由」と同時に、「働き続ける理由が事業所側で明確になっていたか」という視点です。

例えば、実際によくある理由として、以下のようなものがあります。

◇交通費が支給されておらず、実質的な手取りが少なかった
◇家から遠い訪問先ばかり割り振られ、近所で働きたいという希望が通らなかった
◇合わない利用者がいても変更の相談ができず、そもそも誰に相談すればいいのかわからなかった
◇不安や悩みを共有できる担当者がいなく、常に一人で抱え込んでいた

これらは、資格の有無とは直接関係のない理由です。つまり、「資格を取ったから辞めた」のではなく、「資格を取ったことで、今の職場に残る理由が見当たらなくなった」というのが本質です。

未経験者に資格を取らせること自体が問題なのではありません。問題なのは、資格取得後にその人が安心して働き続けられる環境や理由を、事業所側が用意できていたかどうかです。

辞める理由が明確になれば、対策も見えてきます。逆に、この分析をせずに採用と資格支援を繰り返している限り、「資格を取らせても辞めてしまう」という悩みは解消されません。

未経験者を定着させるためには、「辞めない仕組み」を感覚的ではなく、言語化・仕組み化していくことが不可欠です。

C.「定着にかけるコストがない」

→小さな工夫で大きな成果を生む定着策もある

定着施策にコストをかけられないと悩む事業所も多いですが、実はお金をかけずにできることもたくさんあります。ある訪問介護事業所では、近隣のケーキ屋と提携し、配偶者の誕生日に3,000円分のケーキを1つプレゼントする制度を導入しました。

年に一度、3,000円程のコストですが、「家族まで大事にしてくれる会社」として職員の信頼が高まり、定着率の向上につながっています。これは大規模な予算がなくてもできる工夫の好例です。

『育てる覚悟が未来を変える』

このように、未経験者の採用・定着にまつわる課題は、必ずしも「予算」や「時間」の問題ではありません。解決策を工夫し、仕組みとして組み込むことで、多くの訪問介護事業所が確実に成果を出しています。

「未経験者はコストがかかる」と判断する前に、どうすれば“辞めない人材”に育てられるかを本気で考えること。その積み重ねが、結果として事業の安定、そして未来の成長につながるのです。

まとめ:人手不足は「人材との向き合い方」で解決できる

訪問介護の人手不足に対処するには、単なる時給アップや求人数の増加では不十分です。大切なのは、以下のような「根本的な見直しと改善」です。

1.経験者が必要とする求人情報を端的に丁寧に記載する
2.採用要件を3段階で整理し、応募者の幅を広げる
3.時給設定は“地に足のついた”バランス重視で行う
4.未経験者を受け入れ、育てていく長期的な視点を持つ

これらの取り組みを一つひとつ実践することで、「訪問介護 人手不足」の課題は確実に緩和していきます。

甲斐 尊之

株式会社セブンピクチャーズ

甲斐 尊之

■株式会社セブンピクチャーズ HR事業部 部長
■採用定着士 勉強会 講師(一般社団法人採用定着支援協会)
人材採用&人材定着支援、求人コンサルティングに従事。企業の人材獲得から定着までのプロセスを最適化し、長期的な成功に貢献。実践的な解決策と戦略的アプローチで、企業の人材戦略を強化し、組織の成長を促進しています。

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