• コラム

「採用してもすぐ辞めるドライバー問題」を解決したすぐに真似できる手法

1. ドライバーが辞める理由を知る前に、「なぜ辞めるのか」を本質から捉える

多くの運送会社が頭を悩ませる「せっかく採用したのにドライバーがすぐ辞めてしまう」という問題。求人広告費、面接、教育コストなど多くの時間と費用をかけたにもかかわらず、数ヶ月で辞められてしまえば、採用活動はまさに“振り出しに戻る”状態です。

ここでまず明確にしておきたいことがあります。

人が辞めるのは、「辞めたい理由」が「このままいたい理由」を上回ったからです。

感情でも気分でもなく、非常にシンプルな構造です。言い換えれば、社員の心の中にあるシーソーで、“辞めたい”という思いが“このままいる”という思いよりも重くなった時、従業員は会社を去ります。

このロジックは全ての企業、業界、職種に共通します。にもかかわらず、実際の企業の対応はどうでしょうか?

多くの会社は「辞めたい理由(不満・課題)」を分析して、それに対応する形で制度や待遇を改善しようとします。
例えば、「給料が安い」と言われれば給与を上げる、「休みが取りづらい」と言われれば休日を増やす…。

もちろんこれは大切です。しかしこれは例えるなら「痛み止めを飲む」対処療法です。本当の改善には至らないことが多いのです。

2. よくある「辞める理由」のランキングから見える共通課題とは?

実際にドライバーが辞める理由として挙がるのは以下のような内容です。

【ドライバーが辞める理由ランキング】

〇労働時間が長い・不規則:早朝や深夜の勤務があり、生活リズムが安定しない

〇給料に対する不満:業務量や拘束時間に対して報酬が見合っていないと感じる

〇体力的負担が大きい:荷物の積み下ろしや長距離運転による疲労が慢性的に蓄積する

〇社内の人間関係が希薄:一人で業務をこなすことが多く、孤独や不安を感じやすい

〇将来が見えない:キャリアアップや昇進の道が不透明で、長く働くイメージが持てない

これらはすべて“辞めたくなる理由”ですが、実はもっと重要なのは“残りたくなる理由”が何かを知ることです。

3. 視点を変える。「辞める理由」ではなく「ここにいる理由」に着目する重要性

対処療法的な改善では、根本的な解決には至りません。なぜなら、辞めたい理由を一つ潰しても、次に別の不満が芽を出すからです。

そこで必要なのが、「社員がなぜこの会社に今、残ってくれているのか?」を言語化することです。
これは予防医学に似ています。風邪をひくたびに薬を飲むのではなく、「そもそも風邪をひかない身体を作る」という発想です。

たとえば社員に「なぜこの会社で働いているのですか?」と聞いた時に、以下のような答えが返ってきたとします:

■給料が良いから
■居心地が良い|人間関係が良い
■なんとなく(理由はわからない)

一見、ポジティブに思えるこれらの回答ですが、実は非常に危うい“いる理由”です。

なぜなら、これらは他社でも十分に体感できるからです。より高い給料を提示する会社は常に現れますし、人間関係の良さは転職してみなければわからない不確実な魅力ですが、「今より悪くなるとは限らない」と思われてしまうと、簡単に離職の要因になってしまいます。

「なんとなく」といった感覚も、曖昧で掴みどころがなく、再現性も弱いため、強固な“残る理由”にはなりません。

重要なのは、「他社では手に入らない、今いる会社だけの価値」です。

4. 【事例】社長のための福利厚生ではなく、社員のための福利厚生に変える

ある大阪の運送会社では、こんな問題が起きていました。

■新人ドライバーの約半数が3〜6ヶ月以内に離職
■社長は対策として、割引制度、保険、資産形成サポートなど福利厚生を次々に導入
■しかし社員はほとんど利用せず、離職率も変わらなかった

なぜこのようなミスマッチが起きたのでしょうか?
理由は明白です。導入された福利厚生が、社員の“本当のニーズ”に基づいていなかったからです。

多くの中小企業でよくあるのが、社長が「これがいい」と感じたサービスを導入するケース。悪気はありませんが、結果的に「社長のための福利厚生」になってしまうのです。

そこでこの会社は方向転換をしました。社員に対し、次のようなアンケートを実施したのです。

「この会社で働き続けたいと思える福利厚生があるとしたら、どんな制度がほしいですか?」

その結果、多かった意見は次の2つでした:

「子どもの行事に出たいので、半休制度がほしい」
「家族旅行に行くために、年に1度の大型連休がとりたい」

この意見を踏まえて、会社は即座に以下の制度を導入:

■半日単位の有給休暇制度の導入
■年1回の大型連休取得の制度化

結果、ドライバーの離職率が大幅に改善。制度導入後6ヶ月で、離職率が20%以下に低下しました。

ただし、ここで強くお伝えしたいのは、紹介した施策がすべての企業に効果的とは限らないという点です。
今回の事例で社員が「家族との時間を大切にしたい」という価値観を持っていたからこそ、半休制度や大型連休が機能しました。

重要なのは、この成功は“その企業の社員の価値観”と制度がマッチした結果にすぎないということです。
すべての職場で同じニーズが存在するわけではありません。

社員の思いや働き方に対する考え方は、企業ごとに千差万別です。だからこそ、まず自社の社員が本当に求めていることを知るための対話やアンケートが欠かせません。

制度の内容よりも、それを導き出すプロセスこそが、定着率を左右する最初の分かれ道になります。

5. 今日からできる!「社員が残っている理由」を言語化するステップ

では、あなたの会社でもすぐできる対策とは何か?
それは、社員がなぜこの会社に残っているのかを把握し、それを“見える化”することです。

これは特別なことではありません。無料で使えるGoogleフォームなどを活用すれば、簡単に実施できます。

【おすすめ質問例】

・今、この会社に残っている理由は何ですか?
・この会社で働くうえで何が一番大切ですか?
・あったら嬉しい福利厚生は何ですか?
・これまでで「この会社で良かった」と思えたエピソードは?

こうした質問を通して、社員が大切にしている価値観が見えてきます。
その情報を基に、“社員視点の制度や働き方”と”他社では得られない自社での体験”をつくることで、辞めない組織ができあがっていきます。

6. まとめ|離職を防ぐ鍵は「社員が続ける理由」の明確化にある

人が辞めるのは、辞めたい理由が“いる理由”を上回ったときです。
逆にいえば、「ここにいたい」という理由がしっかりしていれば、人はそう簡単には辞めません。

採用活動や制度設計の前に取り組むべきは、「今、なぜこの会社にいるのか?」という社員の内面に向き合い、それを言葉として可視化することです。

特に運送業界のように、ドライバーが社内に常駐せず、基本的に一人で外で働いている職種では、この「いる理由の言語化」が非常に重要になります。

なぜなら、社内に顔を出す機会が少ないことで、日常の中でちょっとした本音を聞き取る場面がほとんどないからです。
事務所での雑談や、ふとした相談、昼休みに交わす会話…。そういったコミュニケーションが物理的に生まれにくい環境です。

せいぜい顔を合わせるのは、年に一度の忘年会や点呼の一瞬だけ。
そうなると、ドライバー自身が何を考え、何を求めているかが見えづらく、気づいたときには「突然の退職」という形で現れてしまいます。

だからこそ、運送会社においては、あえて「聞く場」をつくることが必要不可欠です。

■社員が残ってくれている理由は何か?
■それは他社にはない価値なのか?
■その価値をもっと強く、深くできないか?

社員が自社のどこに価値を感じているのかを把握すること。
それを他社にはない“強み”として育てていくこと。
それが、ドライバーが「続けたくなる会社」をつくる第一歩です。

株式会社セブンピクチャーズ

甲斐 尊之

■株式会社セブンピクチャーズ HR事業部 部長
■採用定着士 勉強会 講師(一般社団法人採用定着支援協会)
人材採用&人材定着支援、求人コンサルティングに従事。企業の人材獲得から定着までのプロセスを最適化し、長期的な成功に貢献。実践的な解決策と戦略的アプローチで、企業の人材戦略を強化し、組織の成長を促進しています。